江森 節子歌集『ゆうすげ色の月』
山村より子(福岡市・ざんぼあ)
この歌集は、二〇一八年から二〇二四年の六年間に詠まれた三百首が収められた第一歌集であり、作者のさまざまな「思い」が込められている。
薬剤師である作者は、植物に対する造詣も深い。
気づかれぬように目蓋をそっと 開け花の蕾は春をうかがう
またの名を地獄の釜の蓋という キランソウ咲きて閻魔の休日
野に咲く小さな花から私たちがあまりなじみのない花まで、優しいまなざしで花々を見つめている。
亡くなった夫への思いはこの歌集の底を流れるように繰り返される。
しじみ汁すすりて温し宍道湖の しろがねの波亡き夫と見る
やっと会えたあなたの不在をせ めており目覚めて悲し夫は逝き たるに
今、朝ドラで評判となっているしじみ汁を最愛の夫と味わい、その温かさにホッとする気持ちの中に、美しい宍道湖の景色を見た時のことを思い出す。夢で夫に会い、目が覚めて夫が亡くなったことに気づきその時のやるせない思いを短歌に託す。と同時に作者は、美しい日本の情景を思いながら、争いの絶えない世界各地域へと思いを繋いでいく。
爆撃の火の手の上がるガザのま ち涙をためた幼子愛し
寒い夜の柚子湯に浸かりてガザ 思う傍観者のみの我は切なし
この世の中は、平和な日本と違い地域において戦争が繰り返されている。しかし自分にはなにもできない歯がゆい思いが伝わってくる。
そして、草花、愛する君、おろかな争いをくりかえす地球への思いをすべてこめて、この歌集の表題である『ゆうすげ色の月』の歌が詠まれている。
ゆうすげは君と見し花その色に 月が浮かびて地球を悲しむ
ゆうすげは、レモンイエローの美しい花である。作者は、ゆうすげと同じ色の美しい月を仰ぐ。その月は、亡き夫と見たものと同じであるが、今もなお、争いの絶えない地球を悲しんでいる。作者の思いは、身近な草花から夫を通して遠く異国の戦地へと向かう。この思いは、この先どこへ繋がるのか。これからも期待の持てる歌人である。

